六天楼(りくてんろう)の宝珠
 表情から朗世はおおかたの内容を察知したが、あえて追及はしなかった。再び書類に意識を戻す。

 ややしばらくの間を置いて、予想通り相手の方から問い掛けがあった。

「桐の特産物で土産になりそうなものはあるだろうか」

「……夫人へのお土産でございますか」

 碩有は頷いた。聞き返す声に熱が全く入っていなかったのは、気付かれなかったようだ。そこに皮肉が含まれていたことも。

「農耕器具や自動車、産業用機材などが主流な商品ですからね。お土産となると車辺りになりますでしょうか」

「車か……」

 悩む様子に朗世は呆気に取られる。

「考え込まれる必要はございますまい? あの御方は館から出ることなどないのでしょうから」

「いや、少し考えていることがあってな」

 嫌な予感がして、朗世は自身に驚いた。何故『嫌な』予感なのかがよくわからない。主が女にうつつを抜かしているからだろうか?

「──他には細工物の装身具などもございますから、そちらの方がよろしいかと」

 理論と現実を重んじる彼には似合わず、理由はさておいても車を買わせたくなくて話を逸らした。

「なるほどな、装身具とは良い思いつきだ」

「夫人は瓊瑶(ほうぎょく)を最近お付けにならないと、以前おっしゃっていたのを思い出しまして」

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