六天楼(りくてんろう)の宝珠
 彼は小さな包みを卓に置いた。

 細長い、天鵞絨(びろうど)と呼ばれる異国渡りの布張りの匣(はこ)だった。

「これは……?」

「開けてみて下さい。螺子よりは増しなものが入っていると思います」

 碩有は冗談めかして微笑(わら)った。

 恐る恐る匣を手にとって、繊細な意匠の金具を外し蓋を開ける。布に埋もれた中身が目に入った瞬間、思わず息を呑んだ。

「すっかり失念していましたが、桐は装飾品の加工も行っている町なのですよ。北の瑶(よう)から石を運び込んで作るのです。貴女には、碧玉(へきぎょく)が似合うのではないかと思いまして」

 絶句している妻の代わりに彼は説明した。対する翠玉はというと、余りの見事さに声が出ない有様である。

 それは大きな碧玉を縁取った首飾りだった。

 瓊瑶の周りには小さな黄緑色の石がならんでいる。その造形美の見事さもさることながら、留め金や首周りの鎖にも蔓の模様が幾重にも重なり繋がっていた。新しいものではないらしく、鈍く光るさまが逆に何とも言えない風合いを醸し出している。

 戴剋の元で豪華な装飾品に少しばかり慣れた筈の翠玉の目にも、この首飾りは素晴らしいものに見えた。同時に非常に貴重な芸術品であろうということも。

「──こ、こんな高価そうなものを、私に?」

 彼は頷いて、並んで腰掛けていた長椅子から身体を前にかがめると「付けてもらえますか」と、首飾りを手に取った。

「い、いえそんな。あまりにも……」

 恐縮する翠玉には構わず、引き輪の形になった留め具を外す。

「もう持ってきてしまいましたから、辞退はなしです」
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