六天楼(りくてんろう)の宝珠
笑いながら彼女の首に腕を回して、項(うなじ)の辺りで留め具を繋げる。ぱちり、と音がした。
翠玉は視線を下げ、襟元に広がる美しい光景と──これを夫が自分の為に選んでくれたという事実にただ唖然としていた。
「ああ、やはりよく似合う」
さっきよりも間近で紡がれる声は心なしか低く、彼女の心に染み入る。
既に息苦しいほどに早鐘を打つ胸を宥めるべく、彼女は「この縁の石は何というものですか?」と質問で場を凌ごうとした。
「橄欖石(かんらんせき)と言うそうです」
「……聞いたことのない名前ですね。桐ではよく知られているのかもしれませんが」
「いえ、多分珍しいものだとは思います。あそこには知り合いがいたのですが、たまたま装身具などに詳しい人だったもので。その人を通して譲り受けたのですよ。百年ほど前に作られたものとか」
「ひゃくっ……!?」
本来それ相応の宝物殿に納められる様な代物ではないか──驚きのあまり、翠玉は伏せていた目を見開いて──故に、自分を見つめる碩有のそれにまともにぶつかってしまった。
「碩有様──」
何かが来る、としか言いようのない感覚に縛られて言葉を失う。
次の瞬間、彼女は碩有に抱きしめられていた。
──えっ。
顔が近づいた瞬間、正直なところ「これはもしかして接吻では!?」と軽く身構えていた翠玉は、夫の身体の感触に真っ白になりながらも頭の中では混乱を極めていた。
順番を飛ばして来たのかもしれないし、どちらにせよ今日こそこちらにお泊りになるのでは──そう期待したのも確かだ。
碩有の腕の中は、予想以上に心地よい居場所だった。
翠玉は視線を下げ、襟元に広がる美しい光景と──これを夫が自分の為に選んでくれたという事実にただ唖然としていた。
「ああ、やはりよく似合う」
さっきよりも間近で紡がれる声は心なしか低く、彼女の心に染み入る。
既に息苦しいほどに早鐘を打つ胸を宥めるべく、彼女は「この縁の石は何というものですか?」と質問で場を凌ごうとした。
「橄欖石(かんらんせき)と言うそうです」
「……聞いたことのない名前ですね。桐ではよく知られているのかもしれませんが」
「いえ、多分珍しいものだとは思います。あそこには知り合いがいたのですが、たまたま装身具などに詳しい人だったもので。その人を通して譲り受けたのですよ。百年ほど前に作られたものとか」
「ひゃくっ……!?」
本来それ相応の宝物殿に納められる様な代物ではないか──驚きのあまり、翠玉は伏せていた目を見開いて──故に、自分を見つめる碩有のそれにまともにぶつかってしまった。
「碩有様──」
何かが来る、としか言いようのない感覚に縛られて言葉を失う。
次の瞬間、彼女は碩有に抱きしめられていた。
──えっ。
顔が近づいた瞬間、正直なところ「これはもしかして接吻では!?」と軽く身構えていた翠玉は、夫の身体の感触に真っ白になりながらも頭の中では混乱を極めていた。
順番を飛ばして来たのかもしれないし、どちらにせよ今日こそこちらにお泊りになるのでは──そう期待したのも確かだ。
碩有の腕の中は、予想以上に心地よい居場所だった。