六天楼(りくてんろう)の宝珠
──気が遠くなりそう。

 自分の鼓動が、彼に聞こえてしまうのではないだろうかと心配する。ふと気づけば、逆に翠玉の耳にもそれは然りで──少し早めに思える心音が、寄せた頬の辺りから聞こえてきた。

 どの位そうしていたものか、いきなり碩有は彼女の身体をぐいと引き剥がした。

「せ、碩有様?」

 呆気に取られて見上げた顔は、複雑そうな表情をしている。そこで初めて、翠玉は彼自身もどうやら混乱しているらしいと理解した。

 理由は全くわからないけれど。

「──今日はそろそろ戻ります」

「えっ!?」

 思わず大きな声を上げてしまった彼女を一瞬不思議そうに見たものの、彼はすぐさま扉に向かって歩き出した。

 まさに房から出ようとする時、首だけで振り返る。

「その首飾り、僕と会う時には付けてもらえますか」

「は、はい。あ……りがとうございます、大切にします」

 慌てて礼を言うと彼は少し照れた様に笑みを浮かべて、去って行った。

「……私、何かしでかしたのかしら」

 取り残された翠玉はしばし呆然と先ほどの出来事を反芻(はんすう)していた。

 でもまあ、抱きしめてくれたということは全く望みがないわけでもないのかもしれない。

 首を彩る、新しい贈り物に触れた。碧玉の輪郭を指でなぞる。膚にあってもひんやりと冷たいのは、貴石の証と聞いていた。

 それにしてもどういうことなのだろう。最後に離れた時の、彼の顔はまるで。
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