六天楼(りくてんろう)の宝珠
 朗世も覗き込んで眉をひそめた。

「そうですね……確かに、報告書では二倍近くの稼動数値になっています」

「考えられるのは他に機械を操作しているかもしれないという可能性だが、届出のある機械は別に報告数値がある。となればもはやこれは、水増し報告しかあるまい」

「工員が病気になるわけですね……しかし御館様。どの様にこれについて証拠を突き付けますか? 確たるものがなければ、のらりくらりとかわされるのが目に見えています」

「確かにそうだな──」

 元通りに扉に鍵を掛け、碩有はしばし考える素振りを見せた。だがそれもすぐにやめて、再び歩き出す。しかも正門の方に向かって。

「御館様?」

 怪訝そうに後を追う朗世達に、振り返りもせずに彼は言った。

「それは当人に会ってから出方を決めようではないか」

「ああ、こんな所にいらしたんですか!」

 絶妙の時機というべきか、表の方から恰幅の良い五十絡みの如何にも貫禄のありそうな男が姿を現した。背後に何人か供を連れている。

 彼らが近づく直前、碩有は背後の部下にだけ聞こえる程度の声で「むしろ堂々と突き付けて動きを見るのもまた一興。この程度隠せない者、狼狽して余計な足掻きをするかもしれないからな」と嗤(わら)った。
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