六天楼(りくてんろう)の宝珠
「奥方様、どちらに行かれるのですか」
槐宛は内廊下へと足を踏み出した翠玉に向かって鋭い声を投げ掛けた。
「莱を探しに行かないとなりません。申し訳ありませんが、お話はまたの機会になさって下さい」
「お待ちなさい! 猫など侍女に探しに行かせれば──奥方様!」
背中を追う声を全く無視して、彼女の姿は見る間に庭の木々の間に消えていった。
後に残された槐宛は呆気に取られている。
紗甫はこの上なく不機嫌そうな顔をしていた。
「槐宛様。というわけですので、早急にお引き取り下さい」
「何と。ぞんざいな扱いにも程があるではないか」
「わたくしも主のお手伝いをせねばなりません。無人の部屋に用向きもございませんでしょう。さあさあ」
「こ、これ! 押すなと言うのにっ」
立ち上がったその肩をぐいと押しやり、紗甫は無理矢理老婆を部屋から締め出した。
ぶつぶつとぼやく声が廊下を遠ざかったのを確認すると、彼女は庭を思案げな目で眺める。
「翠玉様……」
部屋を開ける、というのは客人を追い返す口実。
主が戻った時、他の者より自分が迎えるのが一番と、紗甫は猫探しの為の人を呼ぶ事にした。
槐宛は内廊下へと足を踏み出した翠玉に向かって鋭い声を投げ掛けた。
「莱を探しに行かないとなりません。申し訳ありませんが、お話はまたの機会になさって下さい」
「お待ちなさい! 猫など侍女に探しに行かせれば──奥方様!」
背中を追う声を全く無視して、彼女の姿は見る間に庭の木々の間に消えていった。
後に残された槐宛は呆気に取られている。
紗甫はこの上なく不機嫌そうな顔をしていた。
「槐宛様。というわけですので、早急にお引き取り下さい」
「何と。ぞんざいな扱いにも程があるではないか」
「わたくしも主のお手伝いをせねばなりません。無人の部屋に用向きもございませんでしょう。さあさあ」
「こ、これ! 押すなと言うのにっ」
立ち上がったその肩をぐいと押しやり、紗甫は無理矢理老婆を部屋から締め出した。
ぶつぶつとぼやく声が廊下を遠ざかったのを確認すると、彼女は庭を思案げな目で眺める。
「翠玉様……」
部屋を開ける、というのは客人を追い返す口実。
主が戻った時、他の者より自分が迎えるのが一番と、紗甫は猫探しの為の人を呼ぶ事にした。