六天楼(りくてんろう)の宝珠
※※※※

「らーいーっ。──莱、何処にいるの? 出ていらっしゃい」

 さわさわと風に揺れる木々を掻き分けて、翠玉は気付けば六天楼より遠く離れてしまっていた。

──ここはどの楼かしら……。

 ぼんやりと考えながらも、猫探しも何処か上の空である。

──さっき、槐宛様が仰っていたのは何だったかしら……確か、そう……

 女性を。

 夫が女性を連れ帰ったと、そう言っていなかったろうか。

 不意に胸が苦しくなって、思わず手を添えた。

──それは。

 殿方は子供な所があると言っていたのを思い出す。いつまでも放置していると、他所へ行ってしまうとも。

 だが、考えてみれば確か結婚前に夫は「他に思う人がいる」という様な思わせ振りな態度を取っていた様な気がする。だとすればそれは、自分の話ではなく。

「……もしかして、琳夫人ではありませんか?」

 聞き慣れぬ女の声がして、翠玉はその出所を求め辺りを見回した。

 内廊下も階(きざはし)も様子は西のそれとは変わらないが、開け放たれた室内の様子は生活感が薄い。一目で客房とわかる。
< 41 / 94 >

この作品をシェア

pagetop