六天楼(りくてんろう)の宝珠
 声の主は、その中からこちらをじっと見ていた。

──もしかして。

 翠玉はその場に縫い止められた様に動けなかった。

「貴女は……」

 二十半ばに見えるその女性はあまり顔色がおもわしくなく、疲れて見えた。

 だが元々は清廉な美貌であった事が容易に伺える。知的で儚げな、それはまるで。

──私には、きっとない要素。

 それきり何も言う事が出来ずにいると、女の方がこちらに向かって二、三歩近寄って来た。

 何故か彼女は切なげな表情をしている。

 しばらくまじまじと見つめられて、翠玉は幾分落ち着かない気分にさせられた。

「あの、失礼ですが……何処かでお会いした事でもあったでしょうか?」

 問い掛けると女は軽く息を吐いて哀しげに微笑んだ。廊下に膝を付いて頭(こうべ)を垂れる。

「いえ。初めてお目に掛かります。……その瓊瑶があまりにお似合いで、つい見惚れてしまいました」

 確かに彼女の視線は顔かやや下に向いていた様な気もした。翠玉は首飾りに手を当てる。

「不躾な真似を致しまして申し訳ございません」

「い、いえ。お褒め頂きまして──ありがとうございます」

 答えながらも何かが引っ掛かる。
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