六天楼(りくてんろう)の宝珠
「あの、貴女は何故私の顔をご存知なのですか? 一体何処のどなたなのでしょうか」

 女は笑んだまま答えた。

「わたくしは夫人のお顔を直接は存じません。ですが、首飾りの方はよく存じておりましたので、すぐに判りました」

 彼女の言葉は柔らかく、他意めいたものは感じられない。なのにその一つ一つが、とても嫌な予感を翠玉に伝えてならなかった。

「……ここは、もしかして蓉天楼ではありませんか」

 自分でもぞっとする位、問いかける声は低かった。
 女は頷いた。

「はい、その通りでございます」

「では貴女は、もしかして」

 その先を続けられず、翠玉は黙り込んだ。
 聞かずとももう──わかっていたから。

「わたくしは榮葉と申します。故あって、この度しばらくこちらにご厄介になっております者。夫人には一度お目にかかりたいと」

 榮葉の話はまだ続いていたが、翠玉はいきなり踵を返して走り出した。

「琳夫人!」


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