六天楼(りくてんろう)の宝珠
いつの間にか、身体が自由になっている。碩有は上体を起こして妻から離れていた。
「……済まなかった。少し、取り乱してしまった」
寝台の縁まで動いて、向こうを向く様に腰掛け前かがみになる。肘を膝に付け、両手で顎を支えた。見るからに打ち沈んでいる風に見えた。
「確かにこれでは、あの男と何も変わらないな……」
小さな声で、ぼそりと呟く。
「碩有様?」
立ち上がった背中に翠玉は思わず声を掛けた。
「……しばらく、こちらには来ません。全てが片付いたら、改めて事情を話しに伺います──ですが」
碩有は振り返り、いつものあの思いつめる様な目で彼女を見つめた。
「私は榮葉をここに置くつもりで引き取ったわけではない。彼女とはこれからどうこうする気も全くない──妻は貴女だけだ。……それだけは、信じていて欲しい」
翠玉が咄嗟(とっさ)に返事出来ずにいる内に、彼は戸口へと歩き出してしまった。
「……待って!」
寝台から転がり落ちる様にして夫に追いつき、背中に縋りつく。
今この人を去らせてはいけない、そう思ったら身体が動いてしまっていた。
広い背中は凍りついた様に動きを止めている。
構わず彼女は頬を当てた。しどけない格好など出来はしないが──思えば、彼女から夫に手を伸ばしたのは結婚以来初めてだ。
「行かないで、ください」
「翠玉……?」
「……済まなかった。少し、取り乱してしまった」
寝台の縁まで動いて、向こうを向く様に腰掛け前かがみになる。肘を膝に付け、両手で顎を支えた。見るからに打ち沈んでいる風に見えた。
「確かにこれでは、あの男と何も変わらないな……」
小さな声で、ぼそりと呟く。
「碩有様?」
立ち上がった背中に翠玉は思わず声を掛けた。
「……しばらく、こちらには来ません。全てが片付いたら、改めて事情を話しに伺います──ですが」
碩有は振り返り、いつものあの思いつめる様な目で彼女を見つめた。
「私は榮葉をここに置くつもりで引き取ったわけではない。彼女とはこれからどうこうする気も全くない──妻は貴女だけだ。……それだけは、信じていて欲しい」
翠玉が咄嗟(とっさ)に返事出来ずにいる内に、彼は戸口へと歩き出してしまった。
「……待って!」
寝台から転がり落ちる様にして夫に追いつき、背中に縋りつく。
今この人を去らせてはいけない、そう思ったら身体が動いてしまっていた。
広い背中は凍りついた様に動きを止めている。
構わず彼女は頬を当てた。しどけない格好など出来はしないが──思えば、彼女から夫に手を伸ばしたのは結婚以来初めてだ。
「行かないで、ください」
「翠玉……?」