六天楼(りくてんろう)の宝珠
「私が飾られるだけの妻でないと言うのなら、証明して見せてください。それともこんな事を言う女は、『妾』扱いをされますか?」

 啖呵を切ったはいいものの、それ以上どうしていいかわからず、不安な面持ちで翠玉はただ彼を見上げていた。

 ゆっくりと振り返った彼は、何ともいえない表情を浮かべた。あまりに妖艶な印象に、瞬時に翠玉の心音が早くなる。

 大それた事を言ってしまったのかもしれないと、少しだけ後悔した。

「……いいえ。でもそんな風に言われると……」

 低く間近で囁いたかと思うと、彼は上体をかがめ妻の唇に自分のそれを重ねた。

 軽く触れるだけだったものがあっという間に深く激しくなり、頭の奥が痺れそうになる。
 
「私の歯止めが効かなくなるかも……しれません」

 慣れない舌の動きに戸惑う翠玉から一瞬唇を離し呟くと、再び重ねて絡め取り、繰り返す。

 ようやく彼が唇を離した時には、既に翠玉は身体に力が入らない状態になっていた。床に倒れそうになる身体を抱き上げ、碩有は寝台に今度は優しく横たえる。だが動きはよどみなく、唇で顔から身体をなぞりながら帯を解き、次々と妻の衣服を脱がしていった。

 口付けが終わった時点で頭が真っ白になっていた翠玉は、気づけば自分の上半身が露にされている有様だったので、更に混乱していた。見られて恥ずかしいという思いを抱えながらも、薄明かりの下に初めて見る夫の身体に目が惹き付けられる。

 背広をすらりと着こなしていた普段とは違って、無駄なく付いた剥き出しの筋肉は鎖骨から仄かに隆起が照らされ、美しい中にも猛々しさを思わせた。

 宣言通り碩有の動きは止まる事がない。常々彼女が密かに見惚れていた長い指で、唇で、舌で全てを感じ取ろうとするかの様に触れる。その度に、白い肌はそれに反応し薄紅色に上気していった。

 身体の中心が落ち着かない感覚に支配される。びりびりと弦を弾かれる様な、かつて感じた事のないそれに翠玉が戸惑っていた時、夫の指がその場所に入り込んで来て思わず声を上げた。

「あ……ま、待って……」
< 59 / 94 >

この作品をシェア

pagetop