六天楼(りくてんろう)の宝珠
「琳夫人。病人の前です、お静かにされた方が」

 彼女はきっと背後を睨み付けた。

「貴方が冷静過ぎるんですっ」

「──まあ、落ち着きなさい。翠玉には悪いが、これはもう決めたことなのじゃよ」

 初めて見る二人のやり取りを微笑ましく思いながらも、戴剋は堅固たる意思を翻さなかった。

「少し疲れたようじゃ。この話はこれで終わりとしよう。……碩有、下がって良いぞ」

 まだ何か言おうと口を半開きにしたままの翠玉をわざと無視して、戴剋は目を閉じた。

 かすかに扉の閉まる音がする。

 傍らに人の気配を感じないので薄目を開けてみると、予想通りそこには翠玉の姿もなかった。

──あれもなかなか、頑固な所もあるからの。碩有は手を焼くかもしれん。

 独り愉快な心持になって、彼は今度こそ本当に眠りに就いた。
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