六天楼(りくてんろう)の宝珠
 碩有は妻の制止を聞き入れなかった。ただ掠れる声で、

「……力を抜いて」

 そう言っただけで、指を更に動かし奥に突き進む。

 およそ人間の指が入るなど想像も付かなかった場所に、それが入り込むだけでなく中をかき回されるとは──信じがたいと共に、恥ずかしくて堪らない。しかも動きに伴って甘い痺れの様な感覚はどんどん上昇して行く。溢れ出るもので、やがて指は水を混ぜるのに似た音を立て始めた。

 自分が出しているとは思えない程、切なげな声が漏れる。

 碩有の指が更に奥へと進んだその時、彼は唐突に動きを止めた。

 驚愕した様に、彼は妻を見る。

「翠玉、貴女はもしかして──」

「え」

 何かおかしな事でもあったのだろうかと、翠玉も不安げに見返した。

 だが次の瞬間には碩有は彼女の唇を自分のそれで塞ぎ、更に指の動きを激しくした。

 荒い息遣いと、お互いが動く音が響き渡る。

 理性は根こそぎ奪い去られ、翠玉は深く考える余裕を全く与えられなかった。
故に受け入れた時に夫が一層自分を気遣い始めた様子にも、翌朝目が覚めて冷静になるまで、さして疑問を持つ事はなかったのである。

※※※※

──まさか、初めてだとは思わなかった。

 疲れきって寝入ってしまった妻を腕に抱きながら、碩有は愕然としてその寝顔を見つめていた。

 普段は天真爛漫に見える翠玉が快楽に戸惑う姿は艶かしく、触れた瞬間から彼は己を制御するのが非常に難しいと悟った。中に入る時は流石に何とか自制したが、今も穏やかに寝息を立てている姿を眺めるだけで、切実な衝動にともすれば駆られそうになる。

 これだけの美しい女を、祖父は何故手付かずで置いたのだろう。
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