六天楼(りくてんろう)の宝珠
 手を当て逃さない様にして、覗き込んで来る碩有の視線が少しだけ後ろめたい。翠玉は目を伏せた。

「そうですか?」

 少しばかり口調が不快そうに思えるのは、きっと気のせいだと思う事にする。

「扶慶殿は許せませんね! 領地で民に迷惑を掛けた挙句、好き合っているお二人を引き離すなんて。極刑にすべきだと思います!」

 それは本心からだったので力強く断言すると、彼は毒気を抜かれた様な表情を見せた。

「碩有様、勿論処罰なさるおつもりなんでしょう?」

「あ、はい。それは──そう、なんですが」

 余りに釈然としない顔をしていたので、多少不安になる。

「また私、何か可笑しな事でも言いました?」

「……いえ。誤解が解けたのなら、それで充分です」

 とはいえ、本心からの言葉ではないらしい。夫は失笑を堪えている風に見えた。

「じゃあ何故、そんなに笑っているのですか」

 笑いを納める気配のない彼に、翠玉は段々本気で怒ってやろうかという気持ちになって来た。

 無言で離れようと立ち上がった瞬間、腕を取られ引き戻される。

「……碩有様っ……」

「断言しておきたい事がありますが、聞いてもらえますか」
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