六天楼(りくてんろう)の宝珠
 倒れ込んだ妻の身体を胸に抱き寄せて彼は囁いた。

「覚えておいて下さい。この先もし貴女が少しでも私の心を疑う様な事があれば、私は全力でそれを阻止します。例えどんな手を使ってでも」

 愛の告白にしては余りに不穏な気配がして、翠玉は顔を強ばらせた。

「……『どんな手を使っても』って、た、例えば」

「知りたいですか?」

 昨晩と同じ様な、妖しい笑みが返って来た。

「いえやっぱり結構ですっ! もう今日は私、そろそろ休みますのでこれで」

 翠玉が必死に夫の腕から逃れようとしていると、「失礼致します」と侍女の声がした。

「就寝の支度をさせて頂きます」

「えっ? でもまだ、私呼んでないけど」

 いつも翠玉は眠る前に月琴を弾いたりするので、支度をして欲しくなったら呼ぶのが習慣だった。

「ああ、ありがとう」

 代わって当然の様に答えたのは碩有だった。

「碩有様?」

「私は取り敢えず今日もこちらに泊まります。さっきの話の続きですが、もし証明してもらいたいなんていう事があったら何時でも引き受けます。是非遠慮なく言って下さい」

 妻を羽交い締めにしたまま彼はそう言って、にっこりと笑った。
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