六天楼(りくてんろう)の宝珠
十一 乖離(かいり)
それから七日の時が過ぎた頃、翠玉は桐の町長が代替わりする事を改めて聞かされた。
お決まりと言う所か、情報源は懲りずに毎日の様にやって来る槐苑である。領主夫妻の関係に変化を認めたらしく「まだまだ安心は出来ませんぞ」と釘を刺した後、さらりと言ってのけたのだった。
「存じています。御館様が昨日仰っていましたから」
少し鼻を明かしてみたくなって、翠玉が鷹揚な笑みと共に静かに切り返してみせると老婆は予想通り鼻白んだ。だがちっとも気分は晴れない。こういうのを「八つ当たり」と言うのだろう。
あれからも碩有は毎晩こちらに泊まる様になった。それは嬉しかったけれども、仕事で疲れているのか自分を抱えて眠るばかり。一日は温もりに安堵していた翠玉であったが、そろそろ疑問を感じ始めていた。
──まさか、また私から言われるまで何もしない気なのかしら。
ついそう思って、恥ずかしさに彼女は勢い良く頭振り、考えを打ち消した。まるで欲求不満を感じているみたいではないか、と。
「どうされた?」
「い、いえ。何でも、ありません……」
不思議そうな槐苑を余所に、一人憮然とし項垂れた。
確かに急に町長を代える為の政務で、日中彼が忙殺されているのは何となくわかっていた。碩有は仕事の愚痴など言いはしないが、「外の世界を見せられない代わりに」と領土内の様々な話をしてくれる。本来数月を要する手続きを、出来るだけ短縮させようとしているのだそうだ。
──榮葉さんを早く開放させたいから、よね。きっと。
意に染まぬ状況にいる彼女が気の毒だと思う気持ちに嘘偽りはないと思う──多分。
お決まりと言う所か、情報源は懲りずに毎日の様にやって来る槐苑である。領主夫妻の関係に変化を認めたらしく「まだまだ安心は出来ませんぞ」と釘を刺した後、さらりと言ってのけたのだった。
「存じています。御館様が昨日仰っていましたから」
少し鼻を明かしてみたくなって、翠玉が鷹揚な笑みと共に静かに切り返してみせると老婆は予想通り鼻白んだ。だがちっとも気分は晴れない。こういうのを「八つ当たり」と言うのだろう。
あれからも碩有は毎晩こちらに泊まる様になった。それは嬉しかったけれども、仕事で疲れているのか自分を抱えて眠るばかり。一日は温もりに安堵していた翠玉であったが、そろそろ疑問を感じ始めていた。
──まさか、また私から言われるまで何もしない気なのかしら。
ついそう思って、恥ずかしさに彼女は勢い良く頭振り、考えを打ち消した。まるで欲求不満を感じているみたいではないか、と。
「どうされた?」
「い、いえ。何でも、ありません……」
不思議そうな槐苑を余所に、一人憮然とし項垂れた。
確かに急に町長を代える為の政務で、日中彼が忙殺されているのは何となくわかっていた。碩有は仕事の愚痴など言いはしないが、「外の世界を見せられない代わりに」と領土内の様々な話をしてくれる。本来数月を要する手続きを、出来るだけ短縮させようとしているのだそうだ。
──榮葉さんを早く開放させたいから、よね。きっと。
意に染まぬ状況にいる彼女が気の毒だと思う気持ちに嘘偽りはないと思う──多分。