六天楼(りくてんろう)の宝珠
 辟易する相手ではあったが、ついつい自分の祖母にしていた様な態度が甘いのかもと思いつつ、老婆の背に手を添え外へと誘う。

 だが相手が渋って抵抗するせいで、客人の方が開け放たれた戸口に現れてしまった。

「一瞥以来でございます、奥方様」

 槐苑の背中を押すのも忘れて、翠玉は床に跪くその人物を見下ろした。

 以前見たよりは幾分面やつれが取れ、玲瓏とした美しさが加わっている。

 否、「取り戻した」のだろうか。

「……榮葉さん」

「何じゃと! 不躾ですぞ。一体何の用向きがあって参られた」

 呆然とするばかりの翠玉に代わって、声を荒げたのは槐苑だった。

 榮葉は面伏せたまま、両手には腕半分ほどの布包みを掲げている。

「重々承知しております。ですが一言お礼に参りたく、無礼を承知で伺いました」

「お礼? 奥方様、この女に何かして差し上げたのですか」

「い、いえ。私は何も……」

 事態が全く飲み込めずにいると、榮葉に「ささやかなものですが」と包みを差し出された。

「……とにかく、顔を上げて中にお入り下さい」

「ありがとうございます。ですが、すぐお暇しますので。宜しければここで失礼させて頂きます」

 ようやく顔を上げた、その双眸が翠玉をまともに捉える。

──あの時と、同じ瞳だ。
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