六天楼(りくてんろう)の宝珠
 何故哀しげに自分を見るのか、聞いたらどんな答えが返ってくるのだろう。

「私に礼とは、どういう事ですか」

 代わりにそう尋ねるしかなかった。

「はい、一つは手前の事情で南楼を騒がせましたお詫びと、それをお許し下さった事へのお礼を。今一つは我が父の作品をお買い上げ頂きました上に、この度御館様の計らいで嫁ぐ事になりました。一族共々、とても感謝しております。……ご夫妻が、幾久しくお健やかにあられます様、父がお贈りしたいと」

 榮葉が持参した包みを片手で紐解くと、中からは鳳(おおとり)の細工がきらきらしい螺鈿(らでん)の高飾台が現れた。

「おお。何と美しい……」

 飾台は主に小物を置く為に使う。富貴な家では必需品だが、ここまで凝った意匠はそうそう見つからないと思われた。鼻息の荒かった槐苑でさえも息を呑み、黙り込んでいる。

「どうか、お納め下さいませ」

 再び掲げ頭を垂れた榮葉を前に、翠玉はしばし黙っていた。

「奥方様。折角だから貰っておきなされ。これはもう宝、貴人の房にこそ相応しゅうございます」

「……ご結婚される、というのは」

 脈絡のない言葉にも、榮葉は特に動じなかった。

「わたくしは桐に以前、婚約者がおりました。訳あって離れてしまった、その方の許に嫁ぎます」

 故に本日ここを去る運びとなりました──彼女は顔を上げて、柔らかく微笑んだ。
< 80 / 94 >

この作品をシェア

pagetop