六天楼(りくてんろう)の宝珠
「それはわかりますよ。次の間からものすごい気配がしましたから」

「まさか!」

 確かに板の隙間から固唾を呑んで様子を窺っていたが、そんな念めいたものまで出していたのだろうか。

「……とまではいきませんが。匂いですよ、貴方のこの香の匂い。すぐわかります」

 碩有は結い上げられた彼女の黒髪に顔を寄せた。

「碩有様……」

「ところで、先程の罰の件ですが」

「はい」

 来た、と翠玉は表情を硬くする。

「言いましたよね。──自分だけなら、どんな罰も受けると」

「は、はい」

「私が『榮葉には触れていない』と言った所で、何の証明にもならない事ですし」

「はい──えっ?」

「正直、寝たふりも七日が限界です」

「一体何の話をなさって……ちょっと!?」

 視界が見る間に展開し天井を向いたと思うと、翠玉は寝台に身体を投げ出された。

「どどどうしていきなり、今は罰の話をしていた筈じゃ──ふぐっ」

 起き上がろうとしたが、強引に唇を奪われ阻まれる。

 執拗とも思える長い口付けの後、彼は自嘲気味に笑った。
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