蜘蛛ノ糸
立ち上がった私を、憂いを湛えた横目で見てくる。
憐れんでるつもりなのだろうか?
「市川……あんたは何か知ってるんでしょ? 隠してないで教えてよ! 何でみんな私を無視するの!?」
「落ち着け──」
「記憶がないってどういうこと!? 私に何したのよ!?」
「落ち着けって」
「いいから教えて!」
市川は大きなため息をついた。
それから拳を、高く振り上げたかと思うと、私めがけて降り下ろそうとした。
「やめて──っ」
殴られるのを覚悟で、反射的に目をぎゅっと閉じる。
すっ──
閉ざした視界の中で風を切る音だけが聞こえてきた。
殴られたであろう衝撃が一向にやってこないことを不思議に思って目を開けると、市川の手が私の手や体をすり抜けていることに驚愕した。
痛くない。それどころか感覚すら、ない。
まるで私は──
「幽霊……なの……?」
市川は何も答えない。
ただ私を真っ向から見つめているだけだ。
「私……死んじゃったんだ。ね、そうなんでしょ……?」
「……」
私は地面にへたりこんだ。
いじめじゃなかった──
私はもう、存在しないんだ……
誰も気づいてくれないのは悲しい。
マキやハルカに触れられないのも、声を聞いてもらえないのも寂しい──
……ん?
触れない……?
だとしたら、変だ。
「ちょっと待って。でも、さっき階段で私の腕掴んだよね!?」