蜘蛛ノ糸
どこを見ても際限なく広がる、白の世界。
それは、あのモノクロの景色とどこか似ていたので、眠っている“私”の意識の中だということが分かった。
きっと、ここが帰り道に繋がっているはずだと、何故かは分からないけど確信していた。
問題は、どこに向かえばいいかということだ。
気付けば手の中の銀色の糸が、ずっと遠くへと伸びている。
糸をたどりながら足を一歩前に踏み出すと、草を踏みしめる音がした。
足元を見れば、さっきまで真っ白だった地面に若草が青々と茂っている。
また一歩踏み出すと鳥の声が聞こえ、頭上に青空と雲が現れた。
更に歩を進める度に花が咲き、風がそよぎ、蝶が舞い、木々が育ち始める。
そうして歩いていくうちに山麓の洞窟にたどり着いた。
糸もその奥へと続いている。
私は迷うことなく、その糸に従って洞窟に入っていく。
コツン、コツンと、足音が木霊した。
光の一筋も差さない、息苦しくて真っ暗な道をひたすら進み続けると、やがて遠くに光が見えてきた。
そこに近づくにつれ、反響する自分の足音が大きくなっていく。
鐘楼を突いたようにガンガン響いて、頭が痛い。
それでも、歩く。
あの場所に行けば、帰れる気がしていたからだ。
だから──いかなきゃ──
あと、少し──
酷くなる頭痛に耐えて駆け出すと、私は光の中にダイブした。
*9*
「──っ……」
息が、苦し──
何だか、頭も、ぼーっとする……
ていうか、ここはどこ?
天井、真っ白じゃん。
光は……? 光は、どこ……?
重い頭を左に向けると、窓越しに眩しい夏の朝日が見えた。
(よかった──戻れたんだ、私……)
安堵のため息で、人工呼吸器が白くなる。
「アケル……?」
窓とは反対の方から、母の声がした。
ゆっくり振り返ってみたら、驚いて荷物を落とした母が入口に立っていた。
瞳いっぱいに涙を浮かべて。