蜘蛛ノ糸
「お、母……さん……」
1年も寝ていたから、思い通りにならない体では、そう呼び掛けるのが精一杯だった。
それでも、母は喜んで駆け寄り、私の手に頬をつけてポロポロ涙を落として泣いてくれた。
その後は医者を呼んで、母にあーだこーだと話をしていき、
仕事中だったはずの父も飛んで帰ってきて、大人気なく大声で泣かれて、母もまた一緒に泣いて……。
バタバタした時間は過ぎていき、夕方になって、やっと静けさを取り戻した。
……と思っていたけれど、再び扉をノックする音がした。
「どうぞ」
母の返事を待って、扉が開く。
「こんにちは、おばさん」
入ってきたのは、マキとハルカ。
それと、ちょっと遅れて入ってきた市川。
3人は傍に寄ってきて、笑顔を見せてくれた。
「アケルってば、とんだ寝坊助だねっ!」
ハルカが茶化していいながら、きれいな花を花瓶に入れてくれた。
「昨日、市川くんも誘ってお見舞い行こうって話してたとこだったんだよ。
そしたら、おばさんが連絡くれてさ。部活サボって飛んで来たんだから!」
マキの言葉に私は微笑んだ。
安心していた。
忘れられた訳じゃなかったんだ……。
昨日、市川を誘うと言っていたのも、私のためだったなんて……。
「じゃあ、お母さんちょっと部屋空けるわね。何かあったら連絡して?」
母はそう言って席を立つと、ハルカたちに「ゆっくりしていってね」と微笑み、出ていった。
マキとハルカは、私が居ない間の出来事を、面白おかしく教えてくれた。
女子特有のハイテンションで絶え間なく話し続けるものだから、ややして市川も立ち上がった。
「あ、市川くん、どこ行くの?」
「男が居ない方が話しやすそうだから」
「そんなことないよぉー!」