蜘蛛ノ糸

引き止めるマキに、市川は笑いかけた。


「冗談だって。ちょっと用事あんだよな。日渡も無事に“帰って来た”ことだし、先帰るわ」

「そっかぁ……じゃ、また学校でね!」

「おーす」


ひらひら手を振って、市川は病室を出ていった。


「……ねえ、マキ……?」


私はマキに呼びかけた。


「ん?」

「……みんなで、海、行った、帰り……あの後……市川に、告白、したの……?」


今聞くようなことでもないと分かっていても、聞かずにはいられなくて。

でも、聞かない方が良かったかな、なんて後悔していたら、以外にもハルカが答えた。

しかも、大爆笑で。


「あははっ! してない、してない! する前からあっさり振られちゃったんだよ、コイツ!」

「ちょっとハルカ〜! そんなに笑わないでよ〜」


告白……してない……?


「『好きな人いる?』って聞いたら、堂々と『いるよ』って言われちゃったんだってさ」

「そしたら惨めで、もう何も聞けなくって~」


と、マキは照れくさそうに頬を掻いていた。


マキには悪いけど、ホッとした私がいた。

しかし、また気になる事が増えてしまった。


「市川、の好き、な人、誰、だろ……?」


マキもハルカも「分かんない」と口をそろえて言う。

同じ学校の生徒なのか、他校の生徒なのか……

すごく気になったけれど、答えが出なかったことが救いだ。


だってまだ、市川を“好き”でいられるから──

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