蜘蛛ノ糸
「まさか……それがもし本当だとして……死んだ人を助けられるの……?」
「『生き返らせる』って意味なら、それは出来ない。俺が救えるのは『死にそうな人』だけだ。天国も地獄も知らない、まだ生きる望みのある奴だけ」
と微笑んで、また外に視線を戻す。
「でもっ……! そんなの普通じゃないよ──」
「じゃあ、あんたは普通って言えんのか?」
「私は……、私は、普通の高校生──」
「普通? 奇跡の生還したことが、普通?」
──普通……じゃない。
普通なら、もう死んでいたはずだった……。
でも私は、特別な体験をして、ここに舞い戻った──。
「……そういう事なんだよ。あんたも俺も“普通”じゃない。ただ、その中身が違うだけさ」
そう告げた後、小さく溜め息したのを、私は聞き逃さなかった。
それもそうだろう。せっかく助けてやった相手から感謝されるでもなく、その上“普通じゃない”とまで言われたら。
「……そっか、そうだよね。普通じゃなくても、良いってことにしよう。……助けてくれて、ありがとう」
市川は鼻で笑った後、私の後ろに回って車椅子を押す。
病室に戻る通路を進んでいると。
「あ」
「どうした?」
「ちょっと、止めて」
誰かの病室の前に、小学生くらいの女の子が独り、ぽつんと立っていた。
それも、酷い泥まみれで。
「あの女の子、大丈夫かな? あの子の近くまで──」
押して、と言う前に声は途切れた。