蜘蛛ノ糸
ぎゅっと、胸が握りつぶされるかのような感覚にとらわれた。
友達間でかわされる挨拶にはない、何か特別な感慨をもよおす声音、表情。
今までの「さよなら」とは違い、もう会えないことを黙示されているようだった。
その別れから数日が経ち、私は学校に通い始めた。
周りから気味悪がられるほどの回復ぶりだったこともあり、すぐに普通の生活に戻ることができた。
「アケル~! お帰りー!」
「も~! 待ちくたびれたんだからねっ‼」
「2人とも、待っててくれてありがとう」
教室に着くとマキもハルカも泣いて喜んでくれたし、他の皆も先生も、温かく迎えてくれた。
“狭し人”としてではなく生身の体で、今度こそ自分の席につくことができたのも、とても嬉しかった。
しかし隣の席は空席で、市川はいない。
また会えると思っていた私の期待とは裏腹に、彼は一向に姿を見せてくれなかった。
それどころか、マキやハルカも「分からない」と口を揃え、担任に彼の行方を尋ねても、「家庭の事情で」とだけ答えて濁された。
情報を得ようと尽くしても、私を納得させるだけの説明は得られず、愕然とした。
一体、彼はどこに消えてしまったというのか──。
彼に繋がりそうな人や場所を、自分の足で探し歩いたけれど、“普通”じゃない彼のことだ。
手掛かりを残しているはずもなく、私は闇雲に右往左往しただけに終わった。
彼を追うだけ時間の無駄なようにも思える。
たとえそうだとしても、諦めきれなかった。
だって、『彼が好きだ』というバカバカしい願いで、私はこの世に留まったのだから。
市川が私の心に残した、たった一つの道しるべを胸に病院に戻った。
狭し人だった私が眠っていた、あの病院へ。
エレベータに乗り、以前私が入院していた階で降りると、突然、上腕の辺りがモヤモヤし始めた。
何かで温められているかのような感覚だ。