蜘蛛ノ糸
理由もなく、その熱が市川と関係がある事を悟っていた。あるいは、そう信じたかったのかもしれない。
腕の熱が、病室近づくほどに段々温度を増していく。
やがて骨を焙(あぶ)られているかのような熱さに耐えかねて、腕を押えたまましゃがみ込んだ。
そこは、私の病室の一つ手前。
そう。
あの日、泥まみれの少女が立っていた、あの病室だ。
腕を押えて何とか立ち上がり、もたれかかるようにしてドアに手を掛ける。
そして、力を振り絞り、ドアを横に滑らせた。
その瞬間、私は見た。
市川の驚いた顔。
その後に浮かべた、ほっとした笑顔も。
「元気だったか、日渡」
私はようやくたどり着いたのだ。
彼の──市川のもとに──。
≪end.≫