蜘蛛ノ糸

「うそ、絵本!? あたしそこまで幼稚じゃないよ」

「絵本をバカにすんなよ。子供の読み物だと思ってんだろーけど、奥が深いんだぜ」

「ふーん」

「絵の真ん中だけじゃなくて、周りを見るんだ。そうすると、いろんな仕掛けがあったりするんだよな」

「例えば?」

「ま、読めば分かるよ」


他には何も教えてくれず、市川は去ってしまった。

私はその場で、疑いながら絵本を開いた。



『ふしぎのもりのキッパ』



「……変なタイトル」


ページをめくろうとしたら、いきなり腰を叩かれた。


「きゃッ!?」


心底びっくりして下を向いたら、いつの間にか男の子が立っていた。

幼稚園児、だと思う。
紺色の制服とか、黄色い帽子とか、黄色いカバンとか。


「ど、どうしたのかな?」


苦笑で問い掛けるが、男の子はむすっとしたまま。

私は辺りを見回した。


「お家の人は?」


男の子は首を振る。


「迷子……かな?」


男の子が俯いてしまったので、私は肩を叩いて励ました。


「大丈夫だよ、きっと探しにきてくれるから! ……そうだ、絵本、読んであげよっか?」


すると男の子は満面の笑みで頷いたのだった。
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