蜘蛛ノ糸
私の席の隣……
だけど私は彼の顔を覚えていなかった。
覚えていないと言うより、“知らない”のだ。
(転校生かな……?)
呆然と彼の横顔を見つめていたら、ふと少しだけ振り返った。
すっきり通った鼻に二重瞼の丸い瞳。
整った目鼻立ちにドキドキする。
(カッコイイかも……!)
何か話したかったけど、大きなアクビをして彼は机に伏してしまった。
*2*
廊下を歩いていると、親友のマキとハルカが、窓辺で何やら楽しげに話しているのを見かけた。
「この前さ、偶然、廣川センパイに会っちゃったー」
「うそ! ずるいよマキ〜!」
廣川先輩は2つ年上で、私たち陸上部の主将だった人。
日焼けした爽やかな笑顔も、後輩を思いやる声かけも、輝かしい成績も……
本当にカッコイイ頼れる先輩だった。
私たち3人は、そんな先輩の大ファン。
だからマキの話を聞かないわけにはいかない。
「マキ、廣川センパイ、相変わらずカッコ良かった!?」
と私が尋ねてみてもマキは、
「だからハルカも一緒に行こってゆったじゃん!」
「だって他の予定入ってたんだもーん! ねえ、先輩と何話した!?」
「えへへ、内緒ー!」
楽しそうに話ながら歩き始めた2人。
「ひどーい!」と笑ったハルカが、マキを問い詰めながらついていく。
……私は……?
無視……されてるの……?
授業開始の時間が迫ってきたので、仕方なく教室に戻ることにした。
後ろの出入口に、4人の男子生徒がたまっていた。
ふざけたり小突き合ったりして、大声で笑っている。
その中に、あの消し炭色の髪の生徒がいた。