オレンジジュース[短編集]
──あ…れ?
「あ、あたしっ…泣くつもりは…」
なんでかな?涙が止まらない。ぽたりぽたりと次から次へと流れ落ちる涙。
紛れもなくあたしのもので、廊下に小さな水たまりを作る。
「っ…あたしっ!」
「相澤進が好き」
…え?思わぬ台詞に顔を上げて目を見開く。
目の前にいるのは、ちょっと困った顔をした久我くん。
「分かってた。分かってたよ、椎名が相澤を好きなこと」
「え…?」
久我くんは目を細めると話し始めた。
「前までは椎名さんのこと、全然知らなくってさ。この前、移動教室の途中で初めて見かけたんだ。それから椎名さんのことが気になって、気付いたら目で追ってた……でも。椎名さんの側には相澤がいた。俺の入る場所なんてなかったんだよ」
違うよ、進はあたしをプロデュースしてくれた親友ってだけで、あたしが好きなのは久我くんだよ。
そう言いたいのに言葉が出ない。
「知ってたんだけどさ、俺。昨日俺にぶつかってきた泣きそうな椎名さん見たら、止まらなかったんだ。思わず自分の気持ちを伝えてた」
ふわりと優しい笑顔を向けてきた久我くん。
「ありがとう、ちゃんと言いに来てくれて。もう少し早かったら俺にも勝ち目はあったのかなーっ!なーんてね」
それからくるっと方向転換をした久我くんは歩き出した。
「久我く…「椎名さん。大好きだったよ」
また涙が流れ落ちる。
「あたしも…大好きでした」
そう、過去形だったんだ。