オレンジジュース[短編集]


「違う!ガニ股になってんぞ!!」

怒声の飛ぶ屋上。

「はっ、はい!すみませんっっ!!」

あまりの厳しさに思わず敬語になる。

ちなみに今は歩き方の練習中。歩き方が男っぽい!と指摘した進は、あたしにウォーキングの特訓を持ちかけた。
あの買い物以来、言葉遣いを直す特訓ばかりだったため、気分転換になるかなと思い、二度返事でOKした。

……のが間違いだった。

「足が開いてんだよ!ちゃんと閉じろ!そんなんでスカートじゃみっともねぇだろ!猫背だぞ!曲がってんぞこら!背筋伸ばせ!下向くな!前見ろ!」

「はっ、はいーっ!」

これじゃあまるで、モデルを目指す人の育成所。奴は育成所の、鬼教官。そんな言葉がピッタリと当てはまる。

「ちょっと休憩!ったくこれじゃあ時間かかるな……次の授業サボるぞ」

「えぇっ?!は、はい……」

異論を唱えようとしたあたしを、無言の威圧感が襲った。思わず口をつぐむ。

とりあえず疲れきった足を休めるため、座り込んだ。

その隣に進が腰をおろす。

「はーっ……いい天気だな。つーか美佐は何で歩き方まで男なんだか」
「むっ、仕方ないだ……じゃない」

あたしたちは出会ってから一緒にいる時間が多いせいか、仲良くなっていた。
その証拠に、進はあたしを名前で呼んでいる。

「あっ!久我くんっ!」

ふと校舎を眺めた時に、クラスで友達と喋る久我くんを見つけた。

笑うと優しく曲線を描く唇。ちょっぴり下がる目尻。綺麗な茶色の髪がさらさらと風になびく。

「はー…かっこいいなぁ…」

思わずうっとりと見とれる。


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