九十九怪怪
吸血鬼と別れた場所から、徒歩15分。やっと、家に帰ってきた。あれから陽は完全に登り、朝となっていた。


「――只今、帰りました」

玄関のドアを開け、靴を脱ぐ。しっかりと靴は揃えて上がる。
「お帰りなさい。……随分と遅かったですね」


まさか、返事が返ってくるなんて思っても見なかったため、ピクッと肩を震わせ、視線を前へと向ける。


「び、びっくりした…。起きてたんですか?御陰(みかげ)さん」

「ええ。流石に貴女が心配でしたから」


目の前には、柔らかい笑顔を作っている青年。彼がこの家の家主で御陰という。


「……すいません。って、と、父様は何処にいますか!?」



「今は仕事をしてもらっていますので、自室に籠もっています。…その急な慌てっぷりと遅い帰りは関係がありますか?」


目ざとい。流石、優秀なお方だ。日本人にしては、異色のアイスブルーの瞳がしっかり、此方を射抜いている。いつも、隠し事は彼には出来ない。今回も、正直に話した方が良さそうだ。



「あの、実は……」


先刻までの出来事、
吸血鬼に襲われたこと、その窮地を吸血鬼が助けてくれたこと、そのまま近くまで送り届けてもらったことを嘘偽りなく話した。
御陰様は顔が途中では一切口を挟まなかった。



「――成る程。早急に管狐に伝えなくてはいけませんね。……それより、噂は本当だった、ということですか……」



「噂?吸血鬼が日本に来たってやつですか?」



「少し違いますね。吸血鬼の王子様がやけを起こして、逃げ出してきたという噂ですよ。――それも、大量の下僕を伴って」
< 15 / 17 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop