九十九怪怪
「縊鬼くん、あんまり飯綱(いづな)ちゃんを困らせないで。昼間も学校で疲れているんだから」
私の肩をトントンし労ってくれていた、少年が縊鬼に向けてそう言った。
「…流石、元々は神様の一目連(いちもくれん)。言うことが違うね」
縊鬼は、一目連を睨め付けるように返す。
一目連は苦笑いだ。
「…今は妖怪だか…「そうよ!!今は完璧に妖怪よ!!」…骨女(ほねおんな)…ちょっと耳元で大きな声は止めよう?」
一目連、突っ込むとこはそこなのだろうか。
耳を押さえた一目連の直ぐ後ろには、いつの間にか着物をきた骸骨がいて、縊鬼に向かって骨しかない指を指している。彼女は骨女。姉御肌の良い妖怪だ。
しかし、どうして皆、人の話を最後まで聞かないのだ。
「全く、縊鬼も姑獲鳥も、甲斐性ないわね!!…現在(いま)を生きる妖怪は、人間をめったに襲ってはいけない掟ってもんがあるでしょう!?」
と、骨女は熱弁するが多分−暖簾に腕押し、糠に釘みたいに彼はするりとかわすだろう。
「掟なんて、破るためにあるんだ。知らないの?骨女。それに僕は誰にも左右されない」
ほらね。
やってらんないと、前の席の男前の背中を突っつく。
百々目鬼はゆっくりと此方に体を向けてくれて、なんだ?と一言呟く。私も小声で尋ねる。
「…ねぇ、百々目鬼。なんであんなに縊鬼、機嫌悪いの?」
「…あぁ多分、最近西洋の奴らが日本に流れ込んできてるから、自分の縄張りを荒らされている気がしてるんだと思うが」
「へぇ…。西洋の…」
西洋の奴らとは、もちろん、西洋の妖怪だったり人間に化け物と呼ばれている者達の事だ。
例えば、魔女とか吸血鬼とかミイラ男とか。
やっぱり、生粋の日本の妖怪はプライドってもんが高いらしい。そう言えば、父様も最近忙しそうだった。
「僕は別に、機嫌が悪い訳じゃない。ただ…」
「ただ?」
「最近、この山が臭い。人間の血のにおいだ。苛つく」
なんだそら。
と言いたくなったが、殺されそうなのでやめておく。