九十九怪怪
「何を苛ついてんのよ。テリトリーなんてあったもんじゃないのに」
いつの間にか、骨女が私の机に骨だけの肘を乗せ、頬骨に頬杖を付いていた。
五月蝿いと縊鬼はそっぽを向く。
「…西洋のあやかし達は、妖気が強いと聞くからね、いつか衝突するんじゃって危惧してるんじゃないかな」
その骨女の肩の向こうから一目連が此方を覗き込みながらいった。ね、と縊鬼に問うが縊鬼は無視。一目連は、また苦笑。よくキレないなと私は感心する。
彼の隻眼も流石妖怪だけあって、端から見れば恐ろしい。しかし、此処で妖怪に囲まれていれば、こんなの優しい部類に入る。
そんな一目連の言葉から、私なりの推測をすると、
「…つまり妖怪大戦争が起こるかもってこと?」
「なんだ、それは?」
百々目鬼が怪訝そうに問う。
「人間の娯楽の作品。西洋の妖怪と日本の妖怪同士が争うんだよ」
映画って知ってる?と百々目鬼に聞くと知らないと答えた。
まぁ、そうだよねと相槌を打つ。
「それあり得そうだから、止めなさい飯綱」
真面目な顔−いや、普通の人間には表情などわからないだろうが−をした骨女に真剣に諭された私。
あははと乾いた笑いを出す。
確かに、プライドの高い死神が荒れ狂う姿が有に想像できる。
「そういえば風の噂では、もう日本に吸血鬼が入ってきたって聞いたよ」
一目連は長い前髪を唯一の露わになっている目に掛からないように手で避けながら言った。