月と太陽の事件簿13/アルテミスの翼
「まぁまぁ」

あたしをなだめるように杉田さんは手を振った。

「ああやって現場に緊迫感を持たせるのも、永岡さんのやり方なんだ」

ふぅん。

そんなもんかしらねーと思っていると、永岡という監督のもとにひとりの男性が歩み寄った。

「お、宮前さんが動いたぞ」

杉田さんは口笛でも吹きそうな口調で言った。

その男性の年は杉田さんより上に見えた。

グレーのスーツに、いかめしい顔が印象的。

その宮前という男性が、永岡監督に一言二言、何かを告げると、監督は軽く頭を下げて、水島ADへの説教を止めた。

「宮前さんは浜口理子のマネージャーだ。やり手として有名なんだ」

業界歴も長く、その分スタッフにも顔がきく。

「きっとこの後の浜口理子のスケジュールが詰まっているんだろう」

だから早く撮影を始めるよう言ったに違いないと、杉田さんは解説した。

「こういう時、杉田さんは動かないんですか?」

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