月と太陽の事件簿13/アルテミスの翼
昼間の熱気が嘘の様に、スタジアム内は静まり返っていた。

「翼はこれから自主トレを行うんだ」

夜のスタジアムで何を?と首をかしげるあたしに、杉田さんが教えてくれた。

「カホと湯月くんは翼さんについててやってくれないか」

達郎兄ちゃんは、杉田さんと明日の打ち合わせだそうだ。

たぶん達郎兄ちゃんのことだから、さっき言ってたふたつの可能性について、それとなく訊くつもりなんだろう。

そっちは達郎兄ちゃんに任せて、あたしと湯月くんはフィールドに向かう。

そこではもう、翼さんが昼間と同じジャージ姿でストレッチをしていた。

入念なストレッチを終えた翼さんは、ランニングをはじめた。

フィールドをたった一人で何周も回る。

黙々、淡々。

そんなたたずまいの翼さんの姿に、あたしは引き込まれていた。

TVで観る華やかな翼さんもいいけど、いま目の前で自主トレを続ける翼さんも素敵だ。

その理由は何故か考えていると

「藤本さん」

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