苦くて甘い恋愛中毒
言いたいことはたくさんあるはずなのに、どうしてか言葉にならない。
涙が零れないようにと下唇を噛み締めて堪えたけど、そんな私の必死の抵抗も虚しく、要を睨みつける私の目からは次々と涙がこぼれ落ちた。
要と関係を持ってから3年半、要の前で泣いたのは、あの告白した日以来だった。
鬱陶しいだなんて思われたくなくて、ずっと我慢してきたのに。
要に背を向けて、涙を拭う。
今更かもしれないけど、これ以上泣いてるとこなんて見せたくなかった。
「菜穂」
世界中探しても、これほど完璧に私の名を発音できる男はいないと思う。
だからこそ、私は3年半もの間この男から抜け出せなかったのだ。
どれだけそうしたいと願っても。
「やめて」
でもそれも、いい加減終わりにしてやる。
「名前なんて呼ぶなって言ったの」
さっきから、要にしたら意味の分からないことを並べ立てられ、苛立ちが募っているのか、眉間に皺を寄せる。
でも、名前なんて呼ばないで。
そんな優しい声で。
「期待させるようなことも、そんな態度もとらないで。都合のいい女だと思ってるなら、私のこと好きじゃないなら、それなりの態度があるはずでしょう?」
思わせぶりな態度とらないで。
これ以上、突き落とされるのはうんざりよ。
さっき必死に止めたはずなのに。
ほんの数分も経たないうちに私の涙腺は決壊した。