苦くて甘い恋愛中毒
すっと腕の力が弱まったかと思うと、そのまま離された。
ローテーブルの上に無造作に置かれたZippoと煙草を取り、それに火を点ける。
煙を吐き出しながらその綺麗な指先で私の目尻を拭う。
「お前が泣いてんの見るの、いつぶりだろうな」
それは、考えずとも即答できる。
私たちの関係が始まったあの日だ。
あの日以来、要の前で涙は見せていない。
なにがあっても笑っててやると決めた。
そうでもしないと耐えられなかった。
心が張り裂けてしまいそうだった。
自分が言い出したこととはいえ、好きな人が自分を好きじゃないというのはこれほど悲しいものなのかと、何度も思い知った。
初めはもちろん、いつかは私のことを好きになってくれると信じて疑わなかった。
でも時が経つにつれ、いつまでも変わらない要との関係に、その気持ちもどんどん小さくなって。
その場の勢いもあったとはいえ、なぜあんなことを言ったのかと、いったい何度後悔しただろう。
日に日に消えてゆく温もりと一緒に、要への想いもなくなればいい。
何度も何度もそう思った。
そんな私の願いも虚しく、消えるどころか、募る一方の想いに、幾度絶望したか。
それができないのであればいっそ、彼以上に私を安心させてくれる腕を持っていて、私の名を完璧に発音できて、彼のことを忘れてしまえるくらいの熱いキスができる人がいないものかと王子様探しをしてみたものの、もちろん見つかるはずがなかった。
結局、どうしたってこの男を手放せなかった。
今も変わらず、彼が欲しい。