苦くて甘い恋愛中毒


「要が言ったんじゃん……っ」

違う、要のせいにするつもりはない。
私が自分で決めたことだ。

また、涙がこぼれる。
今日は、口も涙腺もまったく言うことを聞いてくれない。
流れるなといっても、流れるし。言いたいことは伝えてくれない。


「また泣く。今日の菜穂ちゃんはいつになく泣き虫だね〜」

痛いくらいに頭を撫でて、むしろ叩いて、子供に語りかけるような口調で話す。

〝慰める〟なんて行為は微塵も感じられず、むしろ馬鹿にされているのかと錯覚するほどだ。

吸い終えた煙草を灰皿に押し付けて二本目のそれに手を伸ばす。
残念なことに中身が入ってなかったのか、舌打ちをしながら苛立った様子で、箱を握り潰す。

ちょっとしたことで、すぐ不機嫌になって、気分屋以外の何物でもない。
ガキはどっちよ。


私はため息をついて、鞄の中から煙草を取り出して手渡す。
自分の銘柄でもないのに、鞄に常備してしまう。

自販で自分のを買うときに、無意識に一緒に買ってしまうのだ。
それも、自分のものよりも先に。

どこまで飼い馴らされているんだか。


一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐに私から煙草を受け取り、火を点ける。
その様子はなぜかとても楽しそうで、私はますます意味が分からない。


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