苦くて甘い恋愛中毒


素直にYESと言えたらいいのに。

残念なことに私は要の言うとおり、可愛げなんてものを持ち合わせていない女だから。

「なんで私なの? 結婚までするの?」

再度涙腺が決壊する前らしく、なんとか言葉を発した私の声は震えていた。

「家に帰ったらうまい飯と煙草のストックがあって、お前がいて。そんな生活も悪くないなって思ったから」


なに、その理由。
そんなことで結婚決める人なんて要以外いないよ。

でも、なによりの本音だって分かったから。
〝私〟が必要としてくれてるって思えたから。


でも、その前にどうしても聞かせてほしい。
ずっと聞きたくて、ずっと聞けなかったこと。

「……要は、私が好きなの?」

「そういうことになるな」

それじゃ足りない。
最初で最後のワガママだから。


「……ちゃんと言って。一度でいい」

すでに視界がぼやけて、要の顔が見えない。
ついに私を引き寄せ、胸の中に私を入れて。
耳もとで待ち焦がれた言葉を囁く。

――私は、また、涙が出た。



「で? そろそろ返事聞かしてくれてもいいんじゃないですか?」

私をその胸から解放して、長い髪を指に絡ませる。

控えめな香水も、ダークブラウンのストレートのロングヘアーも、すべて彼の好みだ。
今の私は完全に要のためだけの私で、だからこそ、拒む理由なんてあるわけがない。


「……分かってるくせに」

ふて腐れたように口を尖らす私の頭を撫でながら、見せる彼の表情は今までに見たどんなそれよりも優しかった。

「YESよ。私は要の側以外じゃ生きられないんだから」

それがうれしくて、本音を口にする。
同時に今度は私からその胸へと飛び込んだ。


私の返事を聞いて、不敵な笑みを浮かべながら、知ってる、とにやつくこの男に、きっと一生かかっても敵わないんだろうと悟った。


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