苦くて甘い恋愛中毒



――― @ NARITA AIRPORT


「じゃあ、行くわ」

「あっさりしてるね。婚約者との別れだよ? 泣いたりとかないの」

「その言葉。そのままお前に返すわ」


たしかに、ごもっともだ。
普通、女側が泣いてすがりつくものなんだろう。

でも、正直寂しさなんて感じないのだ。

実際、このあとも直接仕事に行くことになっているし。


「だって、たった3ヶ月だし。今までさんざん待ちぼうけ喰らってきたんだから、これくらい全然平気」

「ふーん。俺は、寂しいけどね」

よく言う。
待ちぼうけ喰らわした、張本人のくせに。


「3ヶ月もお前の筑前煮が食えないと思うと……」

「……ほんっと、腹立つ男!」

そう言いながら、左手に持った茶色い紙袋を手渡す。
不思議がってなかなか受け取ろうとせず、最終的に要の胸に押し付ける形になった。


「なにこれ?」

「一食分だけだけど。ホームシックにならないように」

出張ばかりで海外慣れしている彼には、そんなもの無縁だろうけど。

紙袋の中身を見て、要が笑う。
中に入っているのは、タッパに入れた筑前煮だ

要のことだから絶対言ってくるんだろうと思い、昨日の夜作ってしまったのだ。
日付を越えてるのに、なにやってんだ、と自分につっこみながら。


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