苦くて甘い恋愛中毒
「いらないんなら、持って帰る」
ふて腐れたように言って、紙袋を奪い取ろうとする。
でも。
「いらないなんか言ってないだろ。いただきます」
優しく、笑う。
私を骨抜きにするあの顔で。
「俺の嫁さん選びは間違ってなかったな」
ひとり言のように、つぶやく。
そのなにげないひと言が、私にはミサイル級の威力があるんだってこと、知らないでしょう?
そんなこと言われたら、責任とか立場とか、全部放り投げて、チケットカウンターに走りたくなる。
行かないで、離れたくない、一緒に連れていって。
ドラマか映画みたいな台詞を、素で吐いてしまいそうになる。
ほら、言った傍から目頭が熱くなる。
止まることを知らないみたいに流れ出した涙を、要の綺麗な指が触れた。
「全然平気なんじゃなかったっけ?」
「そうよ、平気」
説得力なんて、微塵もないことくらい分かっているけど、黙って泣いているよりはましだ。
今までを思えば、全然大丈夫なはずなのに。
要の気持ちが分からなくて、ただひたすら祈っていた頃よりも。
気持ちが通じたら通じたで、今度は離れるのが嫌で涙を流す。
女という生き物は、どこまでも身勝手だ。
目の前のこの男なんかよりも、ずっと。