苦くて甘い恋愛中毒
私服に着替えて、鞄に無造作に入れられているiPhoneに手を伸ばす。
いくつかメッセージが溜まっており、適当に画面をスライドさせ確認していると、ある男の名前で指が止まった。
『久しぶり。話がある。少しでいいから、時間作れないか?』
〝総吾〟――このメッセージの送り主であり、私の現在の恋人でもある。
ただし、絶賛ケンカ中であり、文面の通り連絡を取ること自体本当に久しぶりだった。
ケンカと言っても、潔いものではなく、今の私たちの状態から分かるように、少し、ちょっと、かなりめんどくさいものだ。
『遅くなってごめん。暇だからいつでも平気だよ。時間と場所、指定して』
連絡事項のみの素っ気ない、いやシンプルな文面。
スタンプすらすら使わない。
別に怒っているわけでもなんでもないけれど、ただただめんどくさい。
もはや彼氏相手とは思えない。
早々に内定が決まった私と、就職氷河期の影響をもろに受けて苦戦していた彼。
ケンカの理由は明白だった。
焦りと苛立ちを募らせる総吾と、必死に励まそうとする私の間には微妙なズレが生じ、それがついに爆発。
総吾にしてみたら、私の励ましも〝就職が決まったやつの余裕〟くらいに感じていたのかもしれない。
総吾とは付き合って一年弱になる。
気も合うし、優しくて紳士的。特に悪いところはないけど、これと言って目立ったところもない。
それでも、ずるずると関係を続けてきたのは、愛ではなく情なのかもしれない。
そもそも愛って何なんだろう。
初めて彼氏ができた高校生の時から、長く彼氏を切らすこともなく、コンスタントに誰かと付き合ってきたけれど、正直そこまで燃え上がるような恋愛をしたことはないし、いつも一年を目前に別れてしまう。
彼氏のことはすきだとは思うし、一緒にいて幸せだと感じることもあるけど、所詮その程度で。
私はそういう人間なのかもしれない、と最近は思い始めていた。