苦くて甘い恋愛中毒
約束の時間を15分ほど遅れて。
私の目の前の席にいきなり総吾が現れたことに、少しばかり驚く。
多分、カフェに入った時点で名前なんかを呼ばれたんだろうけど、私がそれに気づくことはなかった。
「ごめん、遅れて」
「珍しいよね、総吾が遅れるなんて」
「あぁ、うん。ちょっと……な。ごめん」
その妙に歯切れの悪い口調と表情から、明らかに〝ちょっと〟じゃないことが読み取れる。
敢えて、口にはしなかったけど。
なんとか言葉を搾り出した、といったような総吾の顔は、お世辞にも上手く笑えてるとは言えない。
この男、生まれ変わっても役者だけにはなれないな、と思った。
連絡は二週間ほど途絶えていたが、こうして顔を見るのはもっと久々だった。
派手なケンカではなかったから、だからこそ余計なのかもしれないけど、始めのほうはかろうじて連絡は取っていたのだ。
しかし、微妙な空気と、お互いに核心を避けてその場を取り繕うように意味のない会話をすることが次第に億劫になり、気がついたら総吾からの連絡はなかったし、私から連絡することもなくなっていた。
「……久しぶりだよな。何してた?」
「……別に、普通。バイトとか」
余りに素っ気ない私の返答に、苦笑いを浮かべる。
私が怒っているとでも思ったのだろうか、必死に会話を繋げようとしている。
この当たり障りのない会話(と呼べるのかは微妙。総吾が一方的に喋ってるだけだし)は何なのだろう。
話があるって呼びだしたのは、どこのどなたですか。
はやく、本題に入ってよ。
結局、痺れを切らした私が、言葉を遮って話を切り出した。
多分、不機嫌さが滲み出ていたと思う。
「それでさ……、」
「ねぇ。話があるんじゃなかったっけ」