苦くて甘い恋愛中毒
――それから、約30分後。
私は灼熱の太陽のもと、明らかにヒートアップし過ぎなアスファルトの上を歩いていた。
ただでさえ疲れているというのに、なぜ私はこんなところを宛てもなく歩いているのか。
思い出したくもないけれど、その理由は先ほどのカフェでの出来事だ。
意味のない会話の後いよいよ本題に入った彼は、
就職は無事に決まったということ
あの日のケンカを申し訳なく思っていること
そして、好きな女ができたから別れてほしいという以上三点を、しどろもどろと訳のわからない言い訳とともに、話し出した。
は? どういうこと? what?
あの男の思考回路がまったく理解できない。
むしろ理解したくもないし、別れた今となっては、もはや理解する必要もない。
さらに加えて腹立たしいことに、総吾が喋り終えたその絶妙なタイミングで、その〝スキナオンナ〟が現れたのだった。
動揺しまくりの総吾と、いかにも『やばっ☆』とクオリティーの低すぎる演技をした彼女のツーショット。
そこですべてを悟るのは、そう難しいことではなかった。
総吾が珍しく遅刻したのは、その女といちゃついていたからで(この女に行かないで的に引き留められてだらしのない顔をした男が目に浮かぶ)。
つまりは、私と二週間音信不通だった間に、着々と愛を育んでいたのだ。
いや、二週間やそこらでうまくまとまるとも思えないから、もっと前から私の目を盗んであほなことをしていたのかもしれない。
もはや怒りも悲しみも消え失せた私は、テーブルの上に野口英世氏をたたき付け、お幸せに、と名女優さながらの笑顔を振りまき立ち去ってやった。
この時の私の対応は、二十一年の人生の中でも、屈指の名演技だったと自負している。
苦労して掴んだ内定を蹴って、アクターズスクールに入校してやろうかと、そんな馬鹿なことを本気で考えたほどなのだから。