苦くて甘い恋愛中毒
なにはともあれ、この人物が昨夜多大な迷惑をかけた相手なんだろう。
ありがたいことに連絡を取れる手段があるようだから、昨夜の謝罪とお礼をしなければ。
そもそも、鍵はポストにって言われて、『はい、わかりました』と簡単に入れて置けるほど、今の日本は安全ではない。
バッグに入れてあったiPhoneを確認すると、その画面は真っ暗だった。
嫌な予感ほど当たるもので、まさかの充電が切れていた。
肝心な時に役に立たないとは。
これだから現代ツールは困る。
(私はいつの時代の人だ)
「あぁ、もう!」
誰にいないと分かったのをいいことに、苛立った叫びを口にする。
iPhoneが使えないんじゃ、なんにもできない。
バイトだって無断欠勤になってしまった。
とりあえず、ここをでなくては。
いつまでも赤の他人の家に滞在しているわけにはいかない。
私が寝かされていたベッドだけ軽く整えて、バッグを肩に引っ掛け部屋を出る。
しかたなく、言われた通りに銀色の金属片をポストに入れて。
マンションの入口はもちろん、各階ごとにもオートロックの自動ドアがあり、どこの大使館かと思うほど、セキュリティは万全なようだった。
ポストに鍵を入れておいて大丈夫なわけだ。
〝仲山 要〟さんがどんな人か知らないけれど、こんなマンションに住んでいる人だ。
もしかしなくても、すごい人にすっごい迷惑かけちゃったのかも。
タクシーを求めてとぼとぼと歩きながら、不甲斐なさやら恥ずかしさやらで消えたくなる。
そして、ガラスに反射して映った自分のひどさに、さらに愕然とした。