苦くて甘い恋愛中毒
時刻は8時過ぎ。
家に来てと言われたものの、いったいいつ行くべきなのか、いなかった場合どうするのか。
悶々と考え抜いた結果が、遅くもなく早すぎることもないこの時間である。
社会人の生活スタイルを知らないし、彼がどんなに忙しいのかも分からないけど、遅くなると言っていたからこれでも早い方なのかもしれない。
マンションまでの道のりを覚えているのか不安で仕方なかったけれど、記憶力は働いていたようだった。
しかし、無事にたどり着いたはいいが、頑丈なセキュリティのせいで、部屋はおろかマンション内に入ることすら許されず、結局インターホンを鳴らすしか術がなかった。
出なかったらどうしようかと思ったが、気だるげな返事とともにロックが解除され、今朝出てきたばかりの部屋へと足を進めた。
重そうな、光沢のある黒いドアに萎縮してしまう。
それが開いたかと思うと、中からスーツを着崩した男の人が現れた。
180㎝を超えていそうな身長は、ヒールを履いた私でも軽く見上げるほどで、贅肉なんてものとは無縁な引きしまった体が服の上からでもうかがい知れる。
くっきりとした綺麗な二重の目だけど、かわいらしさとはかけ離れた信じられないくらいセクシーな雰囲気で、軽くウェーブがかった黒い髪が、さらに彼の端正さを際立たせている。
彼を構成するこれらの要素が、すべて神様から与えられたものならば、不公平にもほどがあると思う。
加えて、エリート商社マンだなんて。
これは女が放っておかないだろう。