苦くて甘い恋愛中毒


「なんか意外だよな。菜穂ってそんな感じじゃなさそうなのに」


――菜穂。

あまりにもさりげなく私の名を発音するから、危うくスルーするところだった。

これはモテるなと思った。
この人はこんな風に、なんでもないような顔をして、女たちを虜にするのだろう。
この人に夢中になる気持ちが分かった気がした。

この人はもう少し、自分のことを理解すべきだ。
自分の言葉や行動が女たちにどれほどの影響を与えるのか、わかっているのだろうか。

もしも、彼が自分の魅力を理解したうえでこんな言動をしているのだとすれば、この上なくタチの悪い男だと思った。


「意外、って?」

思わず胸を高鳴らせてしまった事実を必死に隠しながら、平然と会話をつなげる。

「しっかりしてそうっていうか。まさか酔い潰れるような感じではなさそうだからさ」

「……私もこんなこと二十一年間生きてきてはじめてです」

またも俯いて話す私を横目に、なにが楽しいのか意地の悪そうな顔をして煙草に火をつけた。

その仕草が妙に扇情的で、大人の余裕と色気を感じさせる。


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