苦くて甘い恋愛中毒
「ついでだから、特別サービスで洗い物もしときますね」
そう言って、食器を持ってキッチンへ向かおうとする私の右腕を引っ張った。
突然のことに驚いて、思わず食器を落としそうになる。
「久々にちゃんとした飯食ったから、もちろんめちゃくちゃうまかったんだけど、それより嬉しかった。ありがとう」
そう言って、優しく笑った。
吹き出すような笑いでも、不敵な笑みでもなく。
驚くほど綺麗で優しい表情の彼に、なぜだか涙が出てきそうになるのを必死に堪えて。
「いーえ、お粗末さまでした」
冗談じみた顔と声でごまかすしかなかった。
――あの人、ずるい。
あんな言葉、あんな表情(かお)。
どきどきするなっていうほうが無理だ。
もっと冷たい人だと思ったのに。
胸が苦しくなって、ときめいて。
挙げ句涙まで込み上げてくるなんて。