苦くて甘い恋愛中毒
「私、そろそろ帰りますね」
洗い物を終えて、リビングに戻る。
バッグを肩にかけながら、すでに仕事を再開させていた彼に声をかけた。
これ以上私がここにいても、邪魔になるだけだろう。
「そっか。まだ電車あんの?」
「ぎりぎり大丈夫です」
時刻は午後11時。
今からここを出れば、なんとか終電に間に合うだろう。
「気ぃつけてな。このあたりよく変質者出るらしいから」
「大丈夫です。護身術使えるんで」
からかうような彼の口調に、〝不審者〟が本当かどうか悩みつつも笑顔で切り返す。
そんな私をぽかんと見つめ、そして吹き出した。
挙句、腹を抱えて爆笑している。
なんだっていうのよ!
「そこは普通、やだぁ怖いから送ってください〜、だろ?」
「は? そんな馬鹿みたいな女と一緒にしないで」
そう言って睨みつける私の側を、手に車のキーと思われるものを持った彼が通り過ぎる。
「ねぇ! だから私、ひとりで帰れるってば……ちょ、聞いてます!?」
「さっさと来ないなら置いてくぞ」
変質者が怖くないって言ってるんじゃない。
本気で私の護身術が通用するとも思っていない。
女ひとりで夜道を歩けばどうなるかくらい、私にだってわかってる。
だからといって、男に頼らなくても自分を守る術はある。
「全部をひとりでしようとするのが大人じゃないぞ。使える時には男を上手く使う、それが出来るのがいい女ってことだ、覚えとけガキ。」
ガキっていわないでよ。
あなたのまわりには、そんな〝いい女〟がたくさんいるってわけ?
必死に背伸びをして大人の女になろうとしているのに、この人の前じゃ、自分がひどく子供じみている気になる。
思い切りふて腐れていたのが顔に出ていたんだろう、すべてを見透かした彼が、不敵に笑う。
「これくらい、素直に甘えた方が可愛げあるぞ?」
むかつく。
自分ばっかり余裕で、私は振り回されてばっかりで。