苦くて甘い恋愛中毒
「菜穂」
名前を呼ばれるだけで、トクンと音を立てる私の心臓。
彼の顔を見るのも随分と久しぶりだ。
意外にもくっきりした二重の目とか、薄めの唇だとか。
見れば見るほど、本当に腹が立つくらいの整った顔立ちで、しばらく会わない間に私の免疫力も低下したのか、じっとみつめられるだけでさらに体温が上昇するのを感じた。
私の考えていることと胸の高鳴りに気づいたのか、思いっきりにやついて。
「ついでに風呂入れといて」
……言うと思ったけどね。
次はこの言葉だろうと予想していたはずなのに、いざ言われると虚しさを感じる自分がいる。
毎回毎回よく懲りないな、と成長しない自分に呆れる。
免疫力だけでなく、学習能力まで低下しているようだ。
――例えば、「ここにいろ」なんて台詞、期待していたわけでもないけど。
とはいえ、ここで落ち込んでいる素振りを見せる方が悔しい。それこそ、彼の思う壷だ。
何も感じていないように精一杯振る舞って、鮮やかに彩られた唇を上げて見せる。
YSLの限定色のルージュは、周囲からの評判もよく、自分でも気に入っている。
ここに来るまでにしっかりと塗り直してきた、なんて、口が裂けても言わない。